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京都家庭裁判所 昭和47年(少)1792号 決定

少年 M・Y(昭三〇・四・一六生)

主文

少年を京都保護観察所の保護観察に付する。

理由

1  非行事実

少年は、昭和四七年三月一〇日午前一一時四〇分ごろ、少年が以前アルバイトで働いていたことのある京都市下京区○○○○○○○○○○○○×××の×所在の○○会館の帳場において、右帳場の棚から同館管理人○田○二所有の面具入一個(現金二一万四、〇〇〇円在中)を窃取したものである。

2  法令の適用

刑法第二三五条

3  保護観察に付する理由

(1)  少年は、昭和四七年少第八八四号、同第一〇二〇号各虞犯保護事件(差戻後の同第一七九二号事件)について、昭和四七年四月一〇日、当庁で中等少年院送致致決定をうけたが、右決定を不満とする少年の抗告の結果、抗告審たる大阪高等裁判所は、「虞犯少年を少年院送致することが相当であるのは、その虞犯性が著しい場合に限られ、性格矯正の必要性が強くても虞犯性の程度が低い場合には、他の保護的処分あるいは保護的措置にとどめるべき」であり、少年については「保護観察による監督指導でも虞犯性の除去に相当の効果を挙げうる」として、右中等少年院送致決定を取消し、当裁判所に事件を差し戻したので、当裁判所は同年五月二四日本件昭和四七年第一三八四号窃盗保護事件と併合のうえ審理をし、少年を当裁判所藤堂調査官の試験観察に付し、盗みや家出をしないこと、Aなどとの不良交友を断つことなどの約束をさせ、しばらくの間その動向を観察することとした。しかるに、少年は当初は父の経営する飲食店を真面目に手伝つていたが、同年九月頃から、Aとの不良交友が復活し、マージャン、パチンコ等に耽けるようになり、生活が乱れてきた。そこで、父親は少年の生活を規則正しくするため、一〇月から少年を近所のアルミサッシ店に就職させたが、少年の生活態度はあらたまらず、夜遅くまで不良と交遊を続け、サッシ店への出勤も怠けがちで、本年になつてからはほとんど欠勤し、退職せざるを得ない破目になつた。このような状況に至るまで藤堂調査官は少年と面接を重ね、また、少年宅に訪問するなどして少年に注意を与えるとともに、B・B・S会員に少年を紹介しその交友関係の改善を図つたが、以上のような少年の生活態度にみられる少年の性格偏倚を矯正するに至らず、また少年の父親に対する態度が極めて反抗的になり、父親の保護能力に期待することもできなくなつた。そこで本年一月一六日当裁判所は再度少年に対し観護の措置を執り、改めて少年の資質を鑑別し、今後の少年の処遇を再検討することとした。

(2)  そこで、上記試験観察の経過と今回の鑑別の結果を総合して検討すると、少年の性格偏倚、深夜まで遊興に耽けるだらしない生活態度、不良少年との交友を絶つことができない性格の弱さ、依存性などは以前の状態からほとんど進歩が認められず、この際、少年を施設に収容して強力な性格矯正の処置が必要であると考えられないわけではない。しかしながら翻つて少年の犯罪危険性からみると、少年は知能が低く、依存性、被影響性が強いため、他の不良少年に利用されて犯罪を犯す虞れがないわけではないが、(本件記録によれば本件窃盗についてもAから金を強要されて犯したものと認められる。)少年の性格自体に犯罪的傾向があるとは言えず、また試験観察の経過を見ても、以前にみられた家出、シンナー・ボンド遊びなどの行動は抑制されており、犯罪の危険性の点からは一応の進歩がみられること、少年が不良交友を続けるAについては、同少年も当庁調査官の試験観察中である関係から、今後はこの方面から規制を加えることが可能であること、試験観察中に試みたB・B・S会員○耆○夫氏との交友もまだ接触が浅いためその効果を評価できる段階には至つておらず、○耆氏の努力にこれから期待できること、父親についても、これまでの少年に対する指導上に難点があつたが、当庁調査官の助言により父親に右難点を認識してもらい今後の改善努力を約させたこと、また観護措置の間に少年に対する指導力を回復したと認められること、少年は知的能力や性格上の問題から社会適応が極めて困難であり、前記アルミサッシ店への勤務を怠つたのも、職場の同僚から馬鹿扱いやいたずらをされて嫌気がさしたことも一因であり、不良交友やパチンコ、マージャンはこのような社会不適応からの逃避であると認められるのであるが、右のような不適応は少年の能力程度を考えるならば、少年院への収容による矯正教化にその効果を期待できるものではなく、少年に特に犯罪の危険性が認められない限りは、今後も社会内での処遇を続け、長期的な視野に立ちながら生活訓練を施し、適応性を徐々に身につけさせていくことが、より適切な方法であると考えられることなど諸般の事情を総合考慮すると、少年の犯罪危険性が今後も強まらない限り、これからも社会内処遇を続けることにより少年の健全な保護を期すべきであると考える。そこで当裁判所としては、試験観察に一応の成果を得たと判断し、今後は保護観察所に後記保護観察に関する処遇勧告の方針を配慮していただくこととして、少年を保護観察に付するのが相当であると思料する。

(3)  なお、差戻後の昭和四七年少第一七九二号虞犯保護事件は、少年が昭和四六年三月に中学卒業してから、昭和四七年三月一六日東京に家出放浪中のところを保護されるに至るまで、職を転々とし、無断外泊、家出を繰返し、不良との交友関係を続けていたため罪を犯す虞れがあることを審判に付すべき事由としているものである(差戻前の昭和四七年少第八八四号虞犯保護事件と同第一〇二〇号虞犯保護事件はいずれも概ね上記事由を審判に付すべき事由として相前後して警察官から送致されてきたものであるが、少年法は、同一非行の二重係属を特に排斥しているものではないから、両事件を併合して審判した原審の手続は適法であると思料する。)が、少年が昭和四七年三月一〇日になした本件非行は、少年の右虞犯性が現実化したものであることが明らかであるから、このような場合右虞犯は犯罪たる本件非行に吸収され、独立して審判に付すべき事由として取り扱うことはできず、ただ少年を保護処分に付する際の情状として考慮されるにすぎないものであるから、これについては少年に対し処分をしない。

(4)  以上のとおりであるから、少年法第二四条第一項第一号により、主文のとおり決定する。

4  処遇に関する勧告

前記保護観察に付した理由に鑑み、少年に対しては今後保護観察の下に厳しい社会的訓練を施すべく、少年に対する保護観察の実施においては保護観察所が次の諸点を留意されることを希望する。

(イ)  少年の遵守事項の中に仕事を怠けないこと、パチンコ、マージャン、ビリヤードをしないこと、Aら不良との交友を絶つことの三点を含めること。

(ロ)  B・B・S会員の活用。(なお○耆○夫氏が引続き協力を申出ている。)

(ハ)  少年は、従属的な形での犯罪の危険性が依然としてあり、また今回の観護措置中に鑑別所内でAを逆恨みしてその恨みを晴らすべくカミソリを穏匿携行するなどの事件があり、衝動的で深く考える力がないため、思いがけない事件を惹起する虞れがあるので、その交友関係、生活態度に危険が認められれば、機敏に当裁判所に犯罪者予防更正法第四二条による通告の処置を執られること。

(裁判官 折田泰宏)

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